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Photo: Getty Images
Trapped behind the shadow   一人の主役には数十人の影がつきまとう。黒子を自覚しながらも、その志とお金の間で揺れる人は少なくない。ワーキングプアなんて言葉が流布するご時勢を考えれば、「やりがい+裕福さ」を目指すこと自体が贅沢かもしれないが……

2017.02.26 21:00

COLUMN

サッカーライターは金持ちになれない

『フットボリスタ主義』選外集④ 2007年9月5日発売号掲載


 サッカーメディアは性善説に依っている。

 先日ある協力者の方からメールをいただいた。取材の報告とともに「経費削減のために空港に泊まる」という一節があった。うちがお願いした仕事ではなかったが、驚いてすぐ返事を出した。

 が、いくら申し訳ないと思っても、私が与えられるのは言葉であって快適なベッドではない。節約せねばならない状況を作っている者の一人が私であることは間違いないが、だからと言って“じゃあ、次から2倍払います”とはいかないのがビジネスの世界だ。「いつか何とかします」とお詫びするのが精一杯だった。この業界は、サッカーが好きだから、報道したいからという理由で、損得抜きで海外に飛んだり滞在する人たちの善意に支えられ、そして甘えているのだ。


■「肉体の限界」= 「収入の限界」


 うちの原稿料は1字=X円だ。これは胸を張れる金額では決してないが、卑屈になるものでもない。私のフリー時代の経験で言うと、1字=2X円というのが破格で、その他は横並びでX円だった。

 驚かれる方もいるかもしれないが、売り買いの現場では原稿は「量り売り」である。文字当たりの単価が決まっていて、書いた量にかけ算すれば対価が出る。原稿の難易度や急ぎ具合などによって、プラスαが加わることもあるが、基本は「1000字=1000X円」という風に機械的に決まる。

 これはつまり、2倍稼ぐには2倍働かなきゃいけない、ということである(そもそも2倍の需要があるのか? という大問題はここでは置く)。

 例えば、毎日8時間働いて3000X円を稼いでいる人が、「結婚するし子供も欲しいから」と6000X円を稼ごうとすると16時間労働に耐えなきゃいけない。でなきゃ、筆を走らすスピードを2倍にし時間当たりの生産量を倍増するしかない。いずれも同じくらい不可能だろう。時間2倍もスピード2倍も過重労働に繋がり、必ず体が悲鳴を上げる。

 そう、ライター業というのは体を唯一の資本とするため、「肉体の限界」が「収入の限界」を決める性質の仕事なのだ。だから私は、サッカー界でものを書く仕事がしたいという人に言っている。「金持ちにはなれないよ」と。それはその人に文才があるとかないではなく、肉体を資本とし文字という価値を量り売りするという構造が、突出した富を生むことを阻むという意味だ。

 いや、もう一つ手があるか。原稿料を2倍にしてもらえばいいのだ。でも、これって不可能ですよね? 私はサッカー界だけでなくフリーを10年以上やったが、単価は一度たりとも上がることがなかった。物価が上昇しようが(スペインではユーロ導入で1.6倍くらいになったが)円安ユーロ高になろうが、X円は微動だにしなかったのだ。


■「善人は裏切れない」


 豊作も大漁もない。バブルもない。羽振りのいい生活をしたければ、この枠組みを飛び出すしかない。と言っても転職以外に思いつくのは、眠っている間にも印税という金が転がり込んでくるベストセラーを書くくらいしかない。我ながら明るくない未来である。

 それでも、サッカーメディアで生活していくのは、“貴族的”だと思う。「高貴な仕事」という意味ではない。生きるために不可欠な商品ではない、嗜好品・贅沢品の生産に携わっているという意味だ。

 仕事も面白い。世の中には「好きなものを仕事にする」とか「自分流に働く」とかの前向きのお題目があふれているが、実際にそれを実現している人はせいぜい数%だろう。その点は、謙虚に感謝すべきだ。

 空港に寝て、夜行バスに歌う。今はオフィスワークでもスペインでは私もそうだった。「善人は裏切れない」。そう戒めながら雑誌を作っている。

(文/木村浩嗣)



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著者・木村浩嗣が自らピックアップした「『フットボリスタ主義』選外集」、全6本を特別公開!

2月21日(火)21時公開「ナンパの道具としてのサッカー」
2月24日(金)21時公開「国歌を歌わない選手を許すべきか?」
2月25日(土)21時公開「代表拒否? てーへんだ、親分!」
2月27日(月)21時公開「映画のボカシとサッカーのタブー」
2月28日(火)21時公開「“コエマン”と“ウードス”に見る、愛国的言葉遣い」

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